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8月31日、1泊2日の神戸旅行に出掛けた。私にとってそれは抱き続けてきた夢であり、冒険でもあった。 私は寝たきりの毎日を、人工呼吸器で命をつないで生きている。私の病状は重症とされる段階にあり、深刻な状況は誰の目にも明らかだと思う。そんな私が旅行に出掛けようというのだ。その大変さは、火を見るより明らかなことだった。 私の行動にまゆをひそめる人も少なからずいたようだが、結局、押し切る形で旅行は実現した。もっとも、医療的ケアを任せられる付き添い者が見つかったという幸運もあったのだが。 どこまでも続くかと思われた高速道路を抜けると、神戸は穏やかに私を迎え入れてくれた。個性的な容姿でたたずむポートタワー。緑が躍る六甲山系の山並み。小波がきらめく神戸港。そこに停泊していた白亜のクルーズ船に、私たち一行は乗り込んだ。 時は暮れなずむ頃。船のデッキから眺めた明石海峡の夕映えは、空と海とを染めていた。陸では見られない光景だ。茜色の落陽を見送り、船は航跡を翻した。 港に戻る頃にはすっかり日も暮れ、神戸自慢の夜景が広がっていた。まばゆいまでの灯りの洪水に圧倒され、感嘆を漏らすばかり。闇に躍る灯りのその中で、私は見惚れるしかなかった。 わずか2日間では広い神戸を回り切れるはずもなく、考えの甘さを痛感させられる場面も多々あった。とはいえ、私は確かに神戸にいたのだ。その事実が持つ意味は大きい。 スマートに整えられた街並みに、高層ビル群が競い建つ洗練された都会。それが私の目に映った神戸だった。しかし、その肌触りは無機質なコンクリートのものとは違っていた。私はそこに体温を感じたのだ。 私が接した神戸の人々は、皆心ある人ばかりだった。さりげなく温かな優しさ、ごく自然な心遣い。また、生き生きとした様子はどこか誇らしげで、神戸を語るまなざしには、街への深い想いがあふれていた。 我が街を愛し、我が街に誇りを持つ神戸の人々。「震災を通して、人と人とのつながり、思いやりの心の大切さを改めて知った」。その言葉が、今も私の耳に残っている。 様々なものに触れ、多くの人々との出会いがあった2日間。この体験は、一生の宝となることだろう。しかし、忘れてはいけない。そこに数多くの人たちの献身があったことを。感謝は尽きない。心をこめて、ありがとう。 (2008年10月8日 読売新聞)
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