ニュース 速報 YOMIURI ONLINE(読売新聞)
現在位置は
です

本文です

子どもの頃の夢が今の夢

志水 哲也 写真家・登山ガイド

タイトル「読むミルク」

 3年前、富山市の某小学校で、5、6年生の子どもたちに「子どもの頃の夢が今の夢」という講演を行った。小学生を相手に講演をするのは初めてだった。自分が小学生だったら何を聞きたいか考えて演題を決めた。

 少し騒いでいた子どもたちも、「幻の滝」として知られる黒部剱沢大滝の撮影に僕が挑むビデオをスクリーンに映すと静かになった。洞窟のように狭い渓谷の上空を綱渡りするスリリングなシーンだった。雪崩に巻き込まれたり、雷に打たれた時の話、登山用のガスボンベが目の前で爆発して九死に一生を得た話もインパクトがあったようだ。

 皆に将来の夢を聞くと、「野球選手になりたい」「看護師さんになりたい」「政治家になりたい」とさまざまな答えが返ってきた。損得にとらわれない、自分の可能性を信じて疑わない思いが眩(まぶ)しかった。「写真家になりたい」という子どももいた。

 自分が写真家になりたいと思ったのは中学高校生の頃だった。登山家として世界を旅したのが20代の頃、そして今、写真家として、登山ガイドとして生きている。僕が山や写真に興味を持った背景には何があったのだろうか。小学生の頃、先生に教わったこと、見たもの、出会った人、細かいことは覚えていないが、そうした経験がきっと大きく影響しているに違いない。

 目指すものをあきらめて仕切り直したり、変えたりすることなく、同じもの、同じ延長線上で、砂山を積み上げるように今まで生きてこられたことを幸せに思う。子どもの頃の夢が、僕の今の夢だ。(この講演がきっかけとなり、昨年、45年間の半生記を綴った『生きるために登ってきた』=みすず書房=を刊行した)

◇1965年横浜市生まれ。登山家として国内外で記録を残す。97年、黒部市に移住。写真集に「黒部」「日本の幻の滝」など。

2012年2月11日   読売新聞)
現在位置は
です